「ピーナッツ・ギャングのスクールライフ」の図録を読む②
スヌーピーミュージアム企画展の原画のチョイスを誰が行っているのかが気になることがあります。日本側にはキュレーターがいませんので本家ミュージアム側が行っている可能性が高いと思いますが、何なら企画立案自体もアチラがやっている可能性も考えられます。
となりますと、今回の「スクールライフ」というテーマなのにダンス教室ネタがあったり、「ホリデー」なのに祝日ではないハロウィンなどがあったり、「旅」なのに旅ではない海水浴があったり…というのもアチラが決めていることになります。あまり考えたくはないですが、ちょっと雑に扱われていますね。
原画のチョイスにどれだけの自由度があるのか判りませんが、ちょっとこれは無いんじゃないの?というのはずっとありますね。
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今回の「ピーナッツ・ギャングのスクールライフ」のチャプター2「勉強はお好き?」の中で、『サリーと学校さん』のエピソードが二つ選ばれています。一つはまだサリーが学校に対して敵意を持っている時期のものですが、もう一つはチャーリー・ブラウンが校舎に話しかけているところをルーシーに見られ…という内容のもので、この二つだけですと全く話が繋がらず見る人が困惑するのではないでしょうか。つまり、一つ目ではサリーが校舎に話しかけているのに二つ目ではチャーリー・ブラウンが校舎に話しかけている事になっているからです。
これは展示を観に来る人が『サリーが病気で登校できなくなったときに校舎にそのことを伝えるように兄にお願いして、彼はバカバカしいと思いつつも校舎に話しかけ運悪くそれをルーシーに目撃されてしまう』という話の流れを知っていれば問題ありませんが、必ずしもそういう人ばかりではないですよね。更に言うと、初めは校舎に向って悪態をついていたサリーもそのうちに愛着を持つようになる。という感情の変化も解っていないと何故チャーリー・ブラウンが校舎に話しかける羽目になるのかも解らないという事にもなります。
もう一つ、所謂『金の星事件』のエピソードから一篇だけチョイスされていますが、これもスヌーピーがペパミント・パティに変装しているところだけですので果たしてどうなのかな?と感じます。まあ前後関係なく『スヌーピーが面白い、可愛い』で済ますことはできますので展示する側的にはイイのかもしれませんが。
それぞれ図録では118ページと260ページに補足解説がありますが、10ページの凡例によるとこれは図録のみの企画のようですので、展示だけを観て図録を買わない人にはちょっと厳しいんじゃないですかね。
展示作品については『画』を観ることに全振りしているので話の流れは二の次である―――という事でしたらまあ納得せざるを得ませんが、そうではないですよね。それでは企画展の意義自体が無いことになります。
この118ページの内容も、掲載されている二つのストリップの一つは先に書いたサリーの感情の変化を表したものなのでいいチョイスだと思いますが、もう一つはこの一連のストーリーが始まる3年前の『サリーが校舎を蹴る』というもので、実はこの頃からサリーと校舎には因縁があるんだよと言いたいんでしょうか…中々にマニアックですな。
同じ趣旨のものがチャプター5「ジョー・クールのだらだらキャンパス・ライフ」にもありまして、ジョー・クール登場(1971年)より遥か昔である1959年の『スヌーピーがキャンパスの人気者になることを夢想する』というものを参考作品として紹介しています。これも中々にマニアックな掘り起こしであります。
ただし、この1959年のこれはあくまでも『犬』として人気者になりたいというものですから、のちのジョー・クールとは全く性質の異なるものです。ベンジャミン・L・クラークはこれをもって『「クール」なふりをさせたのはこれ(1971年のストリップ)がはじめてではありません』と書いていて、ジョー・クールの萌芽がこんな昔にあったんだと言いたかったんでしょうが、これは事実誤認と言ってもいいでしょうな。
話をチャプター3に戻します。『金の星事件』については260ページから「13話連続ストーリー」と銘打って本エピソードの全ストリップを掲載しています。これはこれで大胆ですな。何故このエピソードに限って全話紹介する気になったのかはよくわかりません。ただ、「13話連続ストーリー」などと銘打たれますと13話も続いたすごいストーリーみたいですが、そのくらいの話数の連続物はザラですから、このタイトルも良くわかりませんね。
ともかく、これらを図録のみの企画とするのはとてももったいなく、作品理解のプラスになるものですから原画ではないにしろ展示しても良かったんじゃないですかね。
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しかし、チャプター5「ジョー・クールのだらだらキャンパス・ライフ」で、1971年9月12日のサンデー版の原画が展示されているというのは素晴らしいですね。このチョイスは賞賛に値すると思います。このストリップがジョー・クールのすべてを表しているといっても過言ではありません。例えジョー・クールがこの一作だけで消えていたとしても、ジョー・クールというキャラクターは歴史に残ったであろう―――それほどの完成度だとワタシは思います。
何だかこの原画だけは生で観たい気がしてきました。
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