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2025.01.19

植草甚一の「ぼくのニューヨーク案内」を読む

果たしてピーナッツのコミックはキャラクターグッズの引き立て役に過ぎなかったのか否か?

この疑念を晴らすには、自分がファンになる以前のことを調べなければなりませんが、その一環で植草甚一の本も読んだりしています。

この「ぼくのニューヨーク案内」は1978年に刊行された本ですが、色々な媒体に書いたものを集めたもので、中には1960年に書かれたものもあります。ワタシが読みたかったのは154ページからの「チャールズ・シュルツの日常生活」という章で、これは1970年に書かれたものです(先に書きますが、この本は疑念を晴らすタイプの内容はありませんでした)。

この章はまず植草氏がヴィンス・ガラルディの "Oh, Good Grief!" のレコードを見つけて買うところから始まります。氏は最初はどんなレコードなのかわからずに買ったようですが、すぐにTVスペシャル用に書いた曲の再演集だということに気が付きます。氏はジャズについての著作が多く(しかもわかり易いので評判がいい)、ここでも音楽について何か書いてくれればよかったんですが、話の主体でないせいなのか評価するほどのものではないのかスルーでした。で、ジャケット裏に "このレコードは「ピーナッツによる福音書」の音楽版だ" と書いてあることに気が付き、書棚から昔買っておいたロバート・ショート著「ピーナッツによる福音書」を取り出します。

"Oh, Good Grief!" のレコードというのはコレですね。

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で、ジャケ裏に "このレコードは「ピーナッツによる福音書」の音楽版だ" と書いてあったとのことなんですが、エッ?そんなこと書いてあったっけか?とワタシは驚きました。改めてジャケ裏を見てみましたが、"Vince Guaraldi is the musical gospel according to Peanuts" と確かに書いてはあります。うーん、ワタシは「これはピーナッツによる音楽の福音だ」くらいの感じに解釈してましたが…。

ともかく、氏は「ピーナッツによる福音書」を読みますが、第四章のタイトルが "Good Grief!" となっていることに興味を持ちます。氏はかねがね "Good Grief!" に相当する日本語が無くて谷川俊太郎が苦労していると感じていたようです。

ロバート・ショートはこの2語による言葉の分析もしていてそれを紹介しています。ワタシなりに要約しますと、"Good" と"Grief" という相反する言葉が並んでもキリスト教的には "Grief" には「いい悲しみ」と「あまり良くない悲しみ」の2種類の意味があり、言い換えると前者は「神聖な悲しみ」でそれを感じた人は改悛へ導かれ魂が救済されることを信者は理解しているので "Good" な"Grief" であってもそれをおかしいとは思わない…というような感じだと思うんですが、合ってますかね。でもって伝わりますでしょうか?

ともかく、ショート師の登場によってコミックが神学書までに引き上げられてしまい、シュルツさんは登場人物はどんな哲学を持っているのか、なんてことを質問されたりしたんだそうです。この辺、90年代のツワルスキーの本が登場したあとの日本の状況にちょっと似てますね。

しかし、別に哲学なんてないわけで。なんだかんだ言ってシュルツさんの理想の漫画は「ポパイ」であって「ポパイ」にすごく影響を受けていると公言していますからね。難しい漫画を描こうなんて意図があるわけがないんです。ただ、読み手が色々な解釈ができる懐の深さがあるだけなんです。

最後に植草氏は、登場人物が失敗をやらかす=苦い味が命であって、その過程で人生について深く考えるようになり次第に人として成熟した精神の持ち主になっていくのであり、シュルツさんは一流漫画家として見識があると感心する、という感じで結んでいます。

諸々解釈違いがあったらすみません。

ところで、160ページに以下のような記述があります。

どうやら最近の読者反応では、かんじんのチャーリー・ブラウンがスヌーピーに食われだしているのである。これではいけないとシュルツは考える。どうしたらいいだろうか。

1970年の状況からしたらそうでしょうなあ。

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