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2023年7月

2023.07.28

「スヌーピーがいたアメリカ」第5章を読む

第5章はベトナム戦争です。アメリカを語る上でこれは避けられませんな。

撃墜王スヌーピーは1965年のベトナムへの派兵とほぼ同時に登場しています。撃墜王の舞台は第一次大戦ですからベトナム戦争とは直接的な関係はないように思えますが、これもまたキリスト教を扱う時に見せていたシュルツさんの賢いやり方で、敢えて第一次大戦を舞台にすることでストレートな表現になることを避けていたわけですね。

本書では、ベトナム戦争の戦況と撃墜王の変遷を時系列で解説していて、状況が非常にわかりやすくなっています。

最初は割とお気楽な感じで登場した撃墜王ですが、ベトナムが泥沼化するにつれてどんどん病んでいきます。

どの戦争なのか曖昧なまま、撃墜王は捕虜になったり、母の日のカードを買ったり、いくつかの変遷ののち1969年、「この愚かな戦争に呪いあれ!」と叫びます。どの戦争?もうベトナム戦争のメタファーであることを明らかにしちゃいましたね。同年6月には撃墜王は任務を放棄し逃走、それ以来ベトナム戦争が終わるまでレッドバロンを追うことはなくなりました。もはや戦争は笑える対象ではなくなっていたのですね。

撃墜王エピソードはピーナッツ全集で年代順に読むことはできますが、戦況の変化を感じながらでないと中々理解できないのだな、ということを思い知りました。ワタシは結構流して読んでました。

一方、スヌーピー以外の人間たちもベトナム戦争に翻弄されています。顕著なのがサマーキャンプ・ネタです。サマーキャンプに送られるチャーリー・ブラウンは「徴兵された気分だ」とつぶやいています。「サマーキャンプは徴兵の訓練なんだ」なんてセリフもありました。

あるストリップでは「いつか僕が徴兵されたとき…」なんてセリフが出てきたりしますが、終わりの見えないベトナム戦争の泥沼化は子供にも影響を与えていて、本書ではある親がスポック博士あてに「自分の9歳の子供が18歳になった時にも戦争が続いていて徴兵されるのではないかと怯えている」という手紙を出したという話も紹介されています。どれだけの閉塞感よ!

また、フランクリンの場合、彼の口から父親がベトナムににいることが語られます。文中の「チャーリー・ブラウンの父親よりもフランクリンの父親の方が死に近い」という表現にはドキリとしましたね。

スヌーピーはデイジーヒル子犬園でのスピーチで暴動に巻き込まれます。暴動の原因はベトナムに送られて帰ってこない犬についての抗議でした(このエピソードはワタシが3冊目に読んだピーナツブックス30巻に収録されていました。ベトナム戦争という具体的な表現があって印象深かったエピソードでもあります)。

シュルツさんはベトナム戦争には批判的でしたが、正しい正しくないはともかくとして従軍している兵士たちにはエールを送っていました。スヌーピーはベトナムではヒーローだったといいます。

今でもオークションでスヌーピーのイラストが描かれたジッポーとかが出ていたりしますが、あれはその名残でしょうかね。

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あと個人的に面白かったのは、モート・ウォーカーが何度か登場してきたことです。モート・ウォーカーはコミック「ビートル・ベイリー」の作者で、初期のシュルツさんを漫画家協会に加入させるべく奔走した人物でもあります。

「ビートル・ベイリー」は戦争をしない軍隊漫画で、ワタシの知る限りベトナム戦争を彷彿させるような漫画は全く描いていませんでした。そんなスタンスの人だったからでしょうか、シュルツさんが一連の撃墜王ネタを描くことをものすごく心配しているでいるんですよね。

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2023.07.27

「スヌーピーがいたアメリカ」第4章を読む

第4章は人種問題です。

シュルツさんが黒人少年のフランクリンを登場させたのは、ある読者からの熱心な働きかけだったというのは有名ですが、本書ではそこのところを深掘りしています。

当時コミックに黒人を登場させようかどうかを悩んでいたのはシュルツさんだけではなくもっと沢山いたんですね。結果的にシュルツさんが先陣を切ったわけですが。

しかしワタシは誤解していました。フランクリンの登場は実は大成功ではなかったのです。

フランクリンの初登場は大成功でしたが、その後何週間も出番がなかったこと。90年代こそチャーリー・ブラウンの話し相手として出番が増えましたが、70年代を通じてどんどんフェイドアウトしていき、結局メインキャラにはなれなかったこと。フランクリン以外の黒人少年が登場しなかったこと(厳密にはマイロ、谷川訳ではミロ、がいますが)。

結局シュルツさんは後ろ向きだったんです。シュルツさんに熱心に働きかけた「ある読者」とその仲間の夢は果たされなかったんですね。

この章はちょっと暗い感じで終わります。

それはそれとして、一方ではペパミント・パティがホッケーの練習をしているフランクリンに対して「ナショナル・ホッケー・リーグには黒人選手は何人いるの?」と問いかけるという人種問題をストレートに描いたストリップもあります。

ワタシはこれを月刊SNOOPYで読みましたが、結構驚きましたね。

ペパミント・パティは人種差別主義者だったのか?シュルツさんも所詮は白人か?

そのように解釈した人は何人もいて、月刊SNOOPYの投書欄にも「シュルツさんが人種差別的な漫画を描くなんて」なんてのが載ったりしてました。

しかし当時ナショナル・ホッケー・リーグには黒人選手が1人しかいなかったそうで、実はこれはシュルツさん流の社会批判だったんですね。そんな事情を知らない日本人には真意がわかるわけもなく…。

この現象はアメリカでもあって、後年若い読者がこのストリップを読み、当時の我々のような反応をしたりしてシュルツさんをイラつかせたようです。

あと、ピーナッツにおける最初の人種問題ネタはフランクリンではなく、実はホセ・ピーターソンだったという。

なるほど。ホセ・ピーターソンは北欧と南米の混血児で、確かにマイノリティーでした。
本書では、全然喋らないホセ・ピーターソンについて「英語が喋れないのかも」という推論を立てていますが、そういう解釈もできますね。

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因みに、70年代までの日本におけるフランクリンの扱いについてですが、初登場の海岸でのチャーリー・ブラウンとの出会いと、2度目の登場のチャーリー・ブラウン宅をフランクリンが訪ねるエピソードは、2つともピーナツブックスには未収録でした。

日本の読者はかろうじてピーナツブックス26巻巻末の登場人物紹介と月刊SNOOPYに載った2度目の登場エピソードで彼のことを知ったのでした。

なぜ鶴書房がフランクリン登場エピソードを掲載しなかったのか。それは謎のままです。

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ついでにもう一つ。

海外のブログで「私の嫌いなピーナッツ・キャラ」というようなものがありまして、読んでみるとフランクリンが5位中に入っていました。公然と黒人批判か、勇気あるなあ…まあ、書いている人の人種は分かりませんが。

彼は何故フランクリンが嫌いなのか。読んでみると、フランクリンは普通過ぎるんだそうです。

フランクリンの登場は公民権運動の時代ですから、所謂ステレオタイプの黒人像にするわけにはいかなかったでしょうが、成績優秀で習い事などもしている彼はどこか優等生っぽくもあり、そう思う人もいるんでしょうなあ。

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リンク修正

LOCAL CACTUS CLUBのトップページの「月刊スヌーピー」のリンクがおかしくなつていましたので修正しました。

ご来訪者の方々(あまりいらっしゃらないかと思いますが)にはご迷惑をお掛けしました。

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2023.07.26

「スヌーピーがいたアメリカ」第3章を読む

第3章はキリスト教についてですね。

今はともかく、アメリカという国は70年代くらいまではキリスト教国家だったんだろうと思っていましたが、どうもそうではなかったようですね。

シュルツさんは非常に熱心なキリスト教信者です。ですからその作品であるピーナッツにそれが反映されないわけがありません。しかし、キリスト教をあまり前面に出すと少なからぬ読者に敬遠されてしまいます。

ではどうすればよいか?ここがシュルツさんの賢いところで、作品をキリスト教に染めるのではなく、ライナスを聖書大好き人間に仕立てて彼に語らせるという手法をとったんですね。宗教を漫画全体を支配するテーマではなく1キャラクターの特徴として導入することでリスクを回避したわけです。ライナスは人気キャラですし、キリスト教信者にはメッセージが届きますし、そうでない読者は彼は聖書が好きなんだな~くらいで穏便に済まします。さすがです。

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もう一つキリスト教どっぷりの国ではなかったんだな~と思わせてくれたのが、アニメ「チャーリー・ブラウンのクリスマス」のくだり。

このアニメもライナスを使って「クリスマスって本来こういうものだ」というメッセージを発信していたわけですが、当時のアメリカのテレビはクリスマスの宗教的な意味については全く取り扱っていなかったそうで、それだけに大きなインパクトを与えたということのようです。

ワタシはこのアニメはNHKの本放送は間に合いませんでした(まだファンじゃなかった)が、中学生時代に東京12チャンネルの放送で観ることができました。

アメリカの宗教事情など全く知らないガキでしたが、観終わった後ちょっと敬虔な気分になりました。

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それにしてもここまで読んで思うのは、シュルツさんという人は結構色々なところで宗教や政治について語っていたんだなーということ。それだけの資料がありながら、この本が出るまでシュルツさんの思想を研究した本が無かったということにちょっと驚きました。

この先も楽しみです。

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2023.07.25

Apple TV+版ピーナッツ・アニメの声優について

Apple TV+がピーナッツのアニメを配信するようになって早4年になります。今年も「スヌーピーのショータイム」シーズン3が配信されて益々隆盛ですね。

日本語吹き替えは子役が声優をやっていまして、いままでポニーキャニオンのビデオとかNHK-BS放送とかワーナーのDVDとかが子役の吹き替えでしたが、それらと比較しても結構水準が高いんではないでしょうかね。

この水準というのは、ルーシー役の遠藤璃菜さんに因るところがとても大きいんではないかと思われます。

遠藤璃菜
2005年生まれ

彼女は2019年のスタート時からルーシーを演じ続けていて、今回の「スヌーピーのショータイム」でも続投しています。
もはやApple TV+版ピーナッツの良心ともいえる存在。「蛍の光」や「ルーシーの学校」などの良さは彼女の演技あってのことだと思います。Netflixの「ウエンズデー」の主役ウエンズデー・アダムスの吹き替えもやっています。

しかし今年で18歳、もはや子役という年齢でもなくなってきましたので、そろそろ交代でしょうかね。まあ残念ですが2年後は無いでしょうな。

そして、チャーリー・ブラウン。

最初のチャーリー・ブラウン役は、増本そうし(増本蒼士)さんでした。

増本そうし(増本蒼士)
2007年生まれ

演技力はともかく声質は良かったと思います。私は好きでした。しかし、チャーリー・ブラウンの声優は2022年から浅野そらさんに交代になってしまいました。

浅野そらさんは今年12歳のようです。正直言って、交代当時は声変わり前で活舌もいまいち、なんでこんな配役をしたのか…と思ったもんです。ルーシーとかがどんどん大人っぽい演技になってきているのに、バランスが悪すぎます。

とはいえ、今年の「スヌーピーのショータイム」を観た感じでは、大分良くなってきていて違和感もそんなに無くなってきました。このまま成長していって、いい演技をする声優になってほしいものです。

そのほか。ペパーミント・パティが2022年から、フランクリンが2023年から交代になっています。

リラン役も交代して今回で3代目ですね。幼児の役ですから交代が早いんでしょうね。しかし中々に溌剌とした演技でいいですね。

まとめ。

とりあえず、みんながんばってほしいですが、女子は演技がしっかりしていて男子は舌ッ足らずでイマイチ、という傾向が昔からありまして、それは今のApple TV+でも残念ながら変わっていません。子役という微妙な年齢ですのである程度は仕方がないのかもしれませんが。ですから特に男子にがんばってほしいですね。

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2023.07.24

「スヌーピーがいたアメリカ」第2章まで読む

「スヌーピーがいたアメリカ」を第2章まで読みました。第2章はピーナッツと冷戦について書かれているんですが、これは面白い本ですね。

いままでピーナッツとシュルツさんについて書かれた本は翻訳されたものはすべて読んできましたが、冷戦時代のピーナッツの読まれ方についての考察はこれまで無く、非常に興味深かったです。

ピーナッツの連載開始日1950年10月2日の新聞のトップは「国連軍、38度線を越える」だったんですね。知らなかった。そういう時代だったんだ。

1950年代のアメリカがどのような社会だったのかということを知り、当時ピーナッツがどのように読まれていたかを想像すると、50年代のコミックの解釈もちょっと変わってきそうな気もします。

ライナスが雪を死の灰と勘違いするエピソードが紹介されてました。私がこれを読んだのは小学生の時。一応ギャグだと思って面白がってました(友人の中村君の方が受けてました)が、アメリカの当時の新聞や雑誌では連日核爆弾の恐怖をあおり、学校でも原爆投下されたときの身を守る方法を教えていたりしたそうで、そういう背景を知ると当時は笑い事ではなかったんだな~ということが伺い知れました。

そんな日常を過ごしていたらライナスのように過敏になってしまう子供も出てきてしまいますよね。

しかし、日本に原爆を投下し戦争を終わらせたと誇らしげにしていた国が、数年後には原爆の恐怖におびえていた、というのはちょっと滑稽にも感じます。

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ついでに。

かなり古い話ですが、2011年に「しあわせはあたたかい小犬」が再販されたときのこと、公式サイトにはこんな文章が踊りました。

『発売された時期は、米ソ間の緊張がピークに達した「キューバ危機」直後、ささやかな幸せを描いたこの絵本は当時の人々の心をつかみベストセラーになりました』

私は当時からこの文章には懐疑的でした。なんかこじ付けっぽかったので。

今回の「スヌーピーがいたアメリカ」でもこの本について触れていますが、特にキューバ危機云々ということは書かれていませんでしたね。やっぱりな、と思いました。

シンプルだけどいい本だから売れたんですよ。

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2023.07.23

「スヌーピーのショータイム」シーズン3配信、そのほか続々

最近は全然Apple TV+ をチェックしていなくて(お金がもったいない)気が付かなかったんですが、「スヌーピーのショータイム」の第3シーズンが配信されていたんですね。

6月19日に配信開始されていました。

 

「スヌーピーがいたアメリカ」も読まなければなりませんし、時間を作らなきゃ。

"海外ドラマNAVI"というサイトによりますと、この後にもピーナッツの新作アニメは色々控えているようです。

8月18日には "One-Of-A-Kind Marcie" という新作のスペシャルも配信されるそうで、これまた楽しみですな。マーシーがペパミント・パティのキャディをしたり学級委員長に選ばれたりと色々と苦労する話のようです。

2021年の「蛍の光」からスタートしたアップルの新作スペシャルは、主人公が苦労する話が多い傾向にあります。海外のブログで「私の嫌いなピーナッツ・アニメ・ワースト10」みたいなのがありまして、そういうのを見ますとやっぱりこれらアップルのアニメが入っていたりしますね。選者の気持ちはすごくよくわかりますが、私はこのアップルの作品群が大好きです。

まあ、マーシーはワン・オブ・ア・カインドですよね。がんばれ。

来年2024年には”Welcome Home Franklin" というフランクリンが主役の新作も控えているようで、これまた楽しみ。フランクリンがチャーリー・ブラウンたちと友達になるまでの話のようで、父親が軍人という設定も活きているようです(厳密には父親はベトナム戦争に行っていた)。

そうか、いま気づきましたが、フランクリンがおじいちゃんの話をよくするのは父親が軍隊で不在がちだからなのかもしれませんね。

そのほか、2024年には"Camp Snoopy" というシリーズも予定されていますが、これは「スヌーピー宇宙への道」に続く新シリーズということなんでしょう。

まだあります。9月22日には所謂 "Peanuts Classins" が配信されるらしいですが、これは今"シーズン1"として14エピソードを配信している「ピーナッツ名作シリーズ」のシーズン2が始まるということなんでしょう。今回はどんな作品が配信されるのか!

いやいやいや、これからは忙しくなりそうです。

 

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2023.07.22

「スヌーピーがいたアメリカ」届く

本日、「スヌーピーがいたアメリカ」が届きました。

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届いたばかりで読むのはこれからですが、とりあえず第一印象としては、思いのほか小さく、一応ハードカバーではありますが何か薄く、紙質もペラペラで、これで3600円というのはバカ高と言わざるを得ません。

まあ大切なのは中身ですが。

しばらくは楽しめそうです。

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2023.07.20

スヌーピーin銀座か…

スヌーピーin銀座は始まっていたんですね。

なんといいますか…一応通勤で銀座を通過してますが、途中下車する事は無いですね。

でも一応こんなワタシでも、スヌーピーin銀座を楽しみにしていた時期もあったんですよ。

コロナ禍で予約制になってからかな〜心が離れていったのは。

ピーナッツからはささやかな喜びを得たいと思っていますが、なんか今はそういうモノが得られないような気がします。

あゝ物欲は嫌だ。ただしレコードは別。矛盾してますね。

う~む、何を書いているのだろうか。

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