本題の前に、昨日の記事で『曲によってステレオ感が弱いようなミックスがある』ということを書いたことについて。ライナーをよく読みますとセッションは5月26日と9月11日にサンフランシスコのコースト・レコーダーズ、10月26日に南カリフォルニアのホイットニー・スタジオで3回に分けて行われたようです。この辺がムラの原因でしょうかね?
・・・・・・
今回発売になった "Jazz Impressions of A Boy Named Charlie Brown: Expanded Edition" の目玉と言えば、「シュローダー」の別ヴァージョンの収録でしょう。
この「シュローダー」という小品は、ショパンのプレリュード作品28-7を思わせる落ち着いた雰囲気のピアノ・ソロ曲で、正に「シュローダー」というタイトルにふさわしい感じに仕上がっています。
しかし実はこの曲にはピアノ・トリオで演奏したヴァージョンもあって、それが今回のアルバムに収録されるというアナウンスが発売前から流れていたので、それは一体どのようなものなのかと、とても興味を持っていました。
・・・・・・
さて、「シュローダー」の別テイクは、7曲目にテイク3、10曲目にテイク2が収録されています。
まずテイク2です。お馴染みのメロディがスタッカート気味に登場します。確かにトリオ演奏ですが、テーマを2回繰り返すだけでブリッジが無く、48秒で終わってしまいます。う~ん。発展途上とはいえ寂しい。ちょっと肩透かしでしたかね。
テイク3を聴いてみましょう。 これは…。これまた悩ましい。ガラルディは全然別物に仕上げてきました。出だしはちょっと「チャーリー・ブラウン・テーマ」を思わせるメロディで、聴き進んでいくと薄っすらと「シュローダー」のような気がしてきますが、いやいやコレは別物でしょう。テイク2からテイク3へと大きく軌道修正した後、どのようにピアノ・ソロのあの完成形に辿り着いたのかが、逆に不思議になってきました。これは全テイクが公開されないと判らないですね。
結論からしますと、ちょっと期待が大きすぎたようですな。ワタシが勝手にあの完成形にベースとドラムが加わったようなものを想像していただけですから。テイク3は別の曲としてはまあまあ楽しめますのでそれで良しとしますかね。
・・・・・・
しかし、この曲には他にも謎があるのです。
今回のアルバムには未収録ですが、歌詞が付いたヴァージョンも存在しています。
そのヴァージョンは、「チャーリー・ブラウンの休日(原題:Charlie Brown's Holiday Hits)」というCDに、"Oh, Good Grief! (Vocal)" というタイトルで収録されています。曲は子供2人によるアカペラです。
♬
ああ、君は野球で900試合も負けたし
それに君を罵るのは僕らは大好きだし
それに君は凧揚げも習ったことないし
それに君はペンがないから書くこともできないし
それに君はお昼休みは一人で座って落ち込んでるし
君は優柔不断な間抜けなヤツさ
チャーリー・ブラウン、チャーリー・ブラウン
君には希望なんて一つもないよ
「やったー!やったー!
あの新しい女の子が
今日お昼休みに、僕に微笑んでくれたんだ!」
そして今夜、僕は家に帰って祈るよ
明日彼女が来てこう言ってくれるように
「チャーリー・ブラウン、チャーリー・ブラウン
あなたと知り合えて嬉しいわ」
ああ、あの新しい女の子がこっちを見てるよ
ああ、ヤレヤレ、こっちで呼んでるよ
「チャーリー・ブラウン、チャーリー・ブラウン
何してるの?」
「ああ、何でもないよ!何でもないよ!
何かしたいことある?」
「私の新しい凧を揚げるのはどう?」
「君の凧を揚げられたら、とても誇りに思うよ。
僕は全力で走るよ。」
「チャーリー・ブラウン、チャーリー・ブラウン。
しっかりつかまえててね。」
ああ、彼は凧を空に上げてるよ
ああ、ソイツは木に当たって、壊れちゃうよ
「チャーリー・ブラウン、チャーリー・ブラウン
壊しちゃったみたいね」
「僕はあの木に登るよ
僕は君の凧を降ろしてあげるよ」
「気をつけて、気をつけて
木から落ちちゃうよ」
「あぁ、恥ずかしくて死んでしまいそう」
「大丈夫よ、男らしいトライだったわ
チャーリー・ブラウン、チャーリー・ブラウン
あなたと知り合えて嬉しいわ」
…歌詞は大体こんな感じです。
最後はチャーリー・ブラウンの願いが叶うというオチにはなっているものの、最初のヴァースの歌詞の辛辣なこと。これがショパンのプレリュード7番に似た優雅なメロディに乗るんですからね。
しかもいつの間にかチャーリー・ブラウンの歌になってしまっていますし。特に♬チャーリー・ブラウン~チャーリー・ブラウン~、のところはメロディにぴったりで、最初からそのような譜割りで作曲しているようにすら思えます。
この曲は何のために作られたのでしょうか。そして、トータルタイムが原曲よりも長くなっているという皮肉。しかし、愛らしい小品であることに変わりはありません。
最近のコメント